ノイズカットトランス

基本原理・用途・ノイズの発生原因と対策方法

ノイズカットトランスは、電気的ノイズを抑えて電子機器の信号品質を保ち、性能を最大限に引き出すためのコンポーネントです。機器の動作が不安定な場合には、ノイズカット性能の高いトランスを採用すると改善するかもしれません。この記事では、その基本原理から用途、ノイズの発生原因と対策方法までを詳しく解説します。

ノイズカットトランスとは

ノイズカットトランスは、電子機器における電気的ノイズを抑制するための装置です。アイソレーショントランスの一種で、機器の信号品質を維持して安定した性能が発揮されるように働きます。ここでは、ノイズカットの基本原理と主な用途を説明します。

ノイズカットの基本原理と構造

ノイズカットトランスの基本原理は、不要な電気的ノイズを減衰させることにあります。これは、トランスのコイル巻線を利用してノイズを遮断し、伝送される電力の品質を向上させることで実現します。特に、高周波数のノイズに対して効果的で、電源ラインを介して伝わる干渉を大幅に減少させることが可能です。

1次コイルと2次コイルは絶縁され、その間に静電シールドが設けられています。また、外部のノイズを遮断するようにトランスの外周にも多重の包覆電磁遮蔽板を配しているのも構造的な特徴です。電気的な干渉を防ぐために、コイルの配置やコアの材質・形状にも注意が払われています。

ノイズカットトランスの主な用途

ノイズカットトランスは、オーディオ機器や医療機器、精密測定器など、高い信号品質が求められる用途で広く活用されています。非常に小さい電圧で動作する精密機器の場合、微細なノイズでも性能に与える影響が大きいため、ノイズカットトランスが不可欠です。機器内外で発する電気的ノイズを効果的に遮断できることから、工業用ロボットや通信機器、家電、自動車など、幅広い産業分野で活用されています。

ノイズの発生原因

ノイズは、落雷や宇宙線などによる「自然ノイズ」と、電子機器などから発生する「人工ノイズ」の2種類に大別できます。人工ノイズの主な発生原因として、商用周波数ノイズ、スパイク性ノイズ、接地によるノイズが挙げられます。適切なノイズ対策をとるために、これらの発生原因を理解することが重要です。

商用周波数ノイズ

商用周波数ノイズには、静電結合によるものと電磁誘導によるものがあります。

静電結合による商用周波数ノイズは、電源線に電流が流れて周囲に電場が生成され、電気回路や部品間に電気的な干渉が発生してしまうことです。電源線の周波数成分が他の回路や部品に伝わり、不要なノイズとなります。

電磁誘導ノイズは、大型モーターなどで特に発生しやすいです。大電流を使用するため、電磁誘導によって強力な磁界が生成され、周囲の信号線にノイズを発生させます。2次側コイルに電力を送る際に、磁界の一部が外部に出てしまうのが原因です。

スパイク性ノイズ

スパイク性ノイズは、モーターやコンデンサなどの誘導性負荷回路の開閉によって発生します。モーターではOFFのときに逆起電力が生じ、コンデンサではONのときに突入電流が流れるため、信号線にノイズが混入します。

接地によるノイズ

接地によるノイズは、アースに流れる電流と接地抵抗に起因します。大電流が流れる動力用アースはノイズの原因になりやすいことに留意しましょう。計器用アースとは別にし、十分な距離を空けて設置することが望ましいです。

デジタル信号のノイズ

高周波成分を含むデジタル信号は、電磁干渉(EMI)を引き起こす可能性があります。また、デジタル信号が流れる導体が近接している場合、クロストーク(信号の一部が隣接する導体に混入すること)の原因となることにも注意が必要です。

ノイズの対策方法

電子機器におけるノイズ対策は、ノイズの種類に応じて異なるアプローチが求められます。特にコモンモードノイズとノーマルモードノイズへの対策が基本です。ここでは、この2つの伝導ノイズへの対策と、その他のノイズ対策方法を解説します。

コモンモードノイズの対策

コモンモードノイズとは、2本の電線路を同一方向に侵入し、大地や筐体を介して戻ってくるノイズのことです。有効な対策として、ノイズカットトランスのコイルをシールドし、アースに接続します。これにより、侵入したノイズをアースに逃がせるため、電子機器への影響を最小限に抑えられます。

高周波数のコモンモードノイズ対策では、コイルの配置や材質、コアの形状が重要です。また、コイル相互間で高周波ノイズの磁束が鎖交しないように設計します。数10kHzクラスの低周波ノイズであれば、絶縁トランスでもある程度は防止できます。

ノーマルモードノイズの対策

ノーマルモードノイズは、電源や信号源からの電流と同一方向にノイズ電流が流れて発生するノイズです。これを減少させるには、1次巻線から2次巻線への伝達を抑制します。また、流れのループを短くしたり、鉄心を選択してノイズ成分を2次巻線に誘起させないようにしたりするのも有効です。

トランス自体にフィルタを追加し、低い周波数の電源を通過させつつ高い周波数のノイズを弱める特性を持たせる方法もあります。雷などによる高周波ノイズに対して有効で、電源デバイスの保護と安定運用を実現します。

その他のノイズ対策方法

電源の低ノイズ化には、当社が製作する「球状トランス」もおすすめです。輻射ノイズが閉ループとなって発生しにくく、伝導ノイズの改善につながります。また、漏洩電流に関わるYコンデンサの容量も下げられます。球状トランスを採用すれば部品の追加や補強なしに

ノイズ対策ができるため、コスト低減を図る場合にも有力なオプションです。