日米関税交渉決裂について

1. トランプは“MAGA”という“BAKA”なのか?

トランプ大統領が再登板して以降、再び“MAGA(Make America Great Again)”を掲げ、強硬な関税政策を推し進めている。その姿勢は、まるで20世紀の古典的保護主義の亡霊である。国際貿易は本来、比較優位を基盤とした協力関係であり、関税による威圧は長期的に経済の効率性と安定を損なうだけである。にもかかわらず、トランプ氏は貿易を、勝ち負け、で捉え、強制的な「ディール」を押し付けようとする。他方、現在、日本におけるアメ車の関税は「ゼロ」である。大概の日本人は安くても、アメ車は買わないのである。アメ車は日本市場の消費嗜好、都市環境、ブランド評価のどれにも適応していない。「プロダクトアウト」発想から100年変わらないモノづくりだからである。この事実はトランプ1.0の時に、安部元首相が説明し、彼も納得していたはずである。しかし、「日本にはアメ車が走っていない!日本は市場開放していない!」と声高にしている。もはや意味不明というしかないが、これらの単純思考は、21世紀のグローバル経済を理解していない証左であり、“MAGAというBAKA”という表現がぴったり当てはまるだろう。

2. 永田町と霞が関も極めて“Poor”ではないか?

日本側も手放しで擁護できない。与党や霞が関は「国益を守る」とし、他方、新興勢力は「日本人ファースト」と声高に訴える。だが、それらはあまりにも抽象的で、現場の企業にとっては何の意味も持たない“言葉の遊戯”に過ぎない。「国益」とは誰の何を守るのか。「日本人」とはどこまでを含むのか。それを明言せず、具体的戦略なきままスローガンだけが踊る政治は、結果として交渉力の欠如と実効性の喪失を招く。我々中小企業は、こうした理念の空中戦とは無縁の世界であり、為替・原材料・物流といった現実に向き合う、プラグマティズムの中で生きているのである。

3. 違った視点からディールをしても良いのではないか?

私が交渉する立場なら、ノンアポ凸撃はせずに、次のような「アメとムチ」を提示するだろう。

1.市場開放:米国産コメ関税ゼロ
 全量を“国家備蓄米”として政府が格安で一括購入し、市場には一切出さなければ良い。そもそも、日本のコメ市場は既に自由ではなく、価格・需給ともに制度的にコントロールされている。ここを逆手に取る。米国産米は「貯蔵資源」として活用し、農家には影響させず、現実的な経済安全保障にもなる。なお、備蓄米として買い上げていた国産米は、米国以外へ輸出すれば、農家のメリットになるだろう。

2.対応措置:米国発SNSへの逆規制
 FANGによる「表現の自由」という名のデータ搾取装置を封じる機会である。米国はTikTokを「安全保障上の脅威」として規制し、自国のプラットフォーム産業を保護している。ならば日本も同様に、X(旧Twitter)やMeta(Facebook・Instagram)などの米国系SNSに対して“日本版セキュリティ審査”を義務付ければよい。具体的には、国内ユーザーのデータを日本国内に限定保存する法律、AIアルゴリズム開示義務、青少年保護を名目とした課金・広告機能の制限、などである。これにより、青天井の「デジタル赤字」も改善されるかも知れない。

3.留学生の積極的な勧誘
 トランプ政権は、学問を脅かし、優秀な留学生を排除する方向へ動いている。ならば、日本がその人材をすべて受け入れればよい。高度人材を日本に定着させ、研究・技術・起業に力を発揮してもらうことで、米国の「人的資本流出」を我が国の「国力強化」につなげる。ただし、移民には試験を課し、通過してもらう必要がある。「一定の審査を満たした移民の積極受け入れ」は、日本の少子化・人手不足に対応する最も現実的な施策である。しかも、米国が拒絶した才能を、日本が包摂することで、政治的にも経済的にも優位性を築くことができる。皮肉にも、これは1930年代に米国が行った政策(ナチスに迫害された移民受け入れ)のオマージュである。

4. 内向きになるな
 「国益」や「日本人ファースト」といった言葉が飛び交うなかで、実際に得られる成果がどれほどあるのだろうか。抽象語ではサプライチェーンは守れず、理念だけでは雇用は創出されない。我々に、「MAGAというBAKA」と笑っている余裕などもない。この機会を活かし、空虚な内向きのスローガンを超えた、実効的な政治、経済、企業経営の再構築が不可欠である。

石井宏宗