タリフマンと日本のSME製造業
1. 保護貿易で中長期的な経済成長は難しいことは自明の理
保護貿易政策は、一時的に国内産業を守る効果があるものの、長期的に見ると経済の発展を妨げる傾向があると考えられています。関税を高く設定することで国内生産を促す一方で、輸入品の価格が上昇し、消費者や企業のコスト負担が増すことが指摘されています。
トランプ大統領の関税政策は、短期的にはアメリカ製造業の活性化を狙ったものかもしれませんが、結果としてサプライチェーンの混乱や生産コストの上昇を引き起こす可能性があります。日本の中小製造業(SME)にとっては、こうした不安定な貿易環境が、部品調達や輸出において新たなリスクをもたらす要因になり得えます。
2. トランプは比較生産費の概念を考慮していない
19世紀の経済学者デヴィッド・リカードは、各国が得意な分野に特化して貿易を行うことで、全体の経済効率が高まるという「比較生産費説」を提唱しました。この著名な考え方によれば、国ごとの強みを活かしながら国際貿易を進めることが、持続的な経済成長につながるとされています。
しかし、トランプ氏の政策は、この基本的な経済理論を考慮せず、国内生産の促進を最優先にしているようにも見えます。たとえば、アメリカ国内で生産を増やすことが理想的だとしても、人件費の高さを考えると、本当に競争力のある価格で製品が提供できるのか、疑問を抱かざるを得ません。結果的に、コスト増加が消費者や企業の負担となり、期待したほどの経済効果を生まない可能性も考えられます。
また、製造業の現場においては、サプライチェーンが複雑であり、すぐに生産拠点を移すのは容易ではありません。工場の設立には設備投資や技術移転、人材育成といった時間とコストがかかるため、貿易政策の変化に即応するのは現実的ではないでしょう。こうした点を踏まえると、トランプ氏は比較生産費説だけでなく、製造業の現場についても十分に理解していないのかもしれません。典型的な「現場軽視」といえます。
3. トランプは4年しかない
トランプ氏の在任期間は最大でも4年です。この限られた時間の中で貿易政策を大きく変更したとしても、企業は中長期的な視点で経営戦略を立てるため、短期間の政策変更には慎重な対応を取らざるを得ないでしょう。特に製造業は、設備投資や生産体制の変更に時間がかかるため、たった4年の間に生産拠点を移すような対応は難しいと考えられます。
実際、多くの企業はトランプ氏の政策に対して即応するのではなく、その後の展開を見極める姿勢を取っているように見えます。すでに産業界では「ポストトランプ」の時代を見据え、次の政権での政策転換を視野に入れながら動いていると考えられます。このような状況では、投資の停滞や新規プロジェクトの見送りといった形で、経済が一時的に停滞するリスクも否定できません。
4.まとめ
結局のところ、トランプ氏は比較生産費説を意識していないだけでなく、製造業の実態についても十分に把握していない可能性があります。経済は短期間で劇的に変わるものではなく、特にものづくりの現場では、長期的な視点を持った戦略が不可欠です。そのため、日本のSME製造業にとっては、短期的な政策変動に一喜一憂する事なく、持続可能な成長を目指す中長期的な経営戦略が重要になるのではないでしょうか。
石井宏宗