トランス設計の基礎知識|選定基準・設計手順・用途を解説
トランス設計において抱える課題
トランス設計には多くの課題があり、特に以下の項目が重要です。サンシン電気ではユーザーさまの持つ課題を解決するのに最適な方法をご提案いたします。お気軽にご相談ください。
1.小型化・軽量化
設計の複雑化: 小型化を進めると、部品の配置が密になり、熱管理や電磁干渉(EMI)の問題が発生しやすくなります。特に、トランスの体積を減少させるためには、材料や構造の最適化が必要です。
材料選定の課題: 軽量化を図るために、銅巻線からアルミニウム巻線に変更することが検討されていますが、アルミニウムは抵抗率が高く、損失が増加するリスクがあります。このため、軽量化と効率のバランスを取ることが求められます。
2. 熱管理
発熱密度の上昇: 小型化や高機能化により、トランスの発熱密度が増加し、従来の熱対策手法では対応しきれない場合があります。これにより、熱設計が重要な課題となります。
熱シミュレーションの必要性: 設計段階での熱シミュレーションが必須となり、適切な熱対策を講じるためのデータ収集や解析が求められます。これには専門的な知識とツールが必要です。
事例紹介
サンシン電気(株)開発のスイッチング電源で“通常コア(EER28L)のトランス”から
“クールトランス”に変更し、温度上昇確認試験(測定)を実施したところ、トランスで最も自己発熱温度が高い“巻線(WIRE)”で 5℃以上の低減を確認しました。また、トランスを構成しているコアとボビン、あわせてトランスを実装している基板周辺も、2.4℃~8.7℃ の低減を確認できました。
<クールトランス>
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<伝導妨害波電圧 測定結果>
通常トランス実装
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クールトランス実装
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3. ノイズ対策
スイッチングノイズの発生: スイッチング電源では、スイッチング周波数が高いほどノイズが発生しやすくなります。ノイズ対策を徹底するためには、巻き線構造の最適化やフィルタリングが必要です。
事例紹介
サンシン電気(株)開発のスイッチング電源で“通常コア(EER28L)のトランス”から“φ25球状トランス”に変更し、『伝導妨害波電圧(雑音端子電圧)』測定を実施しました。
低周波数領域を主に数dBのノイズ低減を実現しています。
<(φ25)球状トランス>
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<伝導妨害波電圧 測定結果>
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設計の反復: ノイズ対策を行うためには、設計の反復が避けられず、これが開発期間の延長やコストの増加につながることがあります。
4.コスト管理
材料費の高騰: 高性能な部品や材料を使用することで、製造コストが増加することがあります。特に、特殊な材料や部品はコストを押し上げる要因となります。
生産効率の向上: 生産プロセスの効率化が求められますが、これには新しい技術の導入や設備投資が必要となり、初期コストがかかることがあります。
5.環境規制の遵守
環境基準の厳格化: 環境に配慮した設計が求められる中で、各国の環境規制に適合させる必要があります。これにより設計や製造プロセスに制約が生じることがあります。
リサイクルや廃棄物管理: 製品のライフサイクル全体を考慮したリサイクルや廃棄物管理が求められ、これに対応するための設計変更が必要になることがあります。
6.信頼性と耐久性の確保
長寿命化の要求: 製品の寿命が延びる中で、信頼性や耐久性を確保するための設計が求められます。これには、厳しい試験や評価が必要です。
故障率の低減: 故障率を低減するための設計や製造プロセスの改善が求められます。これには、品質管理やテストプロセスの強化が含まれます。
これらの課題は、トランス設計の各段階で考慮する必要があり、設計者は技術的な知識と経験を活かしてこれらの問題に対処することが求められます。特に、小型化と熱管理、ノイズ対策のバランスを取ることが、製品の性能と信頼性を確保するために重要です。
サンシン電気(株)は、トランス設計に関する豊富な知見を活かし、お客様の課題を解決するソリューション提案をいたします。お気軽にお問い合わせください。
トランス設計の基礎知識|選定基準・設計手順・用途を解説
トランスは、電圧を調整したりエネルギー損失を抑えたりするなど、電気エネルギーの効率的な伝送と変換を司っています。したがって、機器の信頼性や安全性を保つためにはトランス設計が非常に重要です。この記事では、トランスの基本構造や種類、役割、選定基準を踏まえ、設計手順や利用用途まで幅広く解説します。
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トランス(変圧器)とは
トランス(変圧器)は、電気エネルギーの電圧を変換するためのデバイスです。トランスを活用することで電気を効率的に伝送できます。さらにトランスは絶縁する構造となっており、電子機器の安全な利用を実現するうえで重要です。

トランスの基本構造
トランスは主にコア(鉄心)と巻線で構成され、さらに絶縁材料を用いて安全性を確保する構造になっています。
コア
トランスのコアは、磁気パスを形成し、巻線間でエネルギーを伝達する役割を担います。コア材料には通常、高い透磁率を持つ鉄や鋼が使用され、エネルギー損失を最小限に抑えるためにシリコン鋼やアモルファス鋼が利用されることもあります。
EI形やEE形、EF形は矩形を基本としたシンプルな形状で、安価なコアです。EER形は巻線脚を円筒形にして巻き易くしているため、一般的によく利用されています。また、不要な部分を除去して断面積を大きくしているPQ形では、磁気飽和の緩和と軽量化が図られています。
巻線
トランスの巻線はコアの周囲に配置され、電磁誘導によって電圧を上げたり下げたりするために使用されます。1次巻線と2次巻線の比率によって、トランスの出力電圧を自由に変更できます。巻線には表面に絶縁材料を施したエナメル線を用いるのが一般的です。線材は導電性が高くて耐熱性のある銅やアルミニウムが選択されます。
絶縁材料
トランスの絶縁材料は巻線同士や巻線とコアの間での短絡(ショート)を防ぎ、機能性と安全性を高めるために不可欠です。絶縁材料には、耐熱性と電気的絶縁性に優れたガラス繊維やシリコン樹脂、エポキシ樹脂などが使用され、トランスの長期的な信頼性を保証します。トランスのサイズや使用環境だけでなく「耐熱クラス」にも考慮して、絶縁材料を選定することが重要です。
耐熱クラス | 絶縁材料の許容最高温度(℃) | トランスの許容最高温度(℃) |
A | 105 | 100 |
E | 120 | 115 |
B | 130 | 125 |
F | 155 | 150 |
H | 180 | 170 |
トランスの種類
トランスには多様な種類があり、それぞれが特定の用途や機能に応じて設計されています。ここでは、回路方式で分けたトランスの種類と、それぞれの特徴・用途を下表にまとめました。
トランスの種類(回路方式別) | 特徴・用途 |
フライバックトランス | 絶縁型DC/DCコンバータやスイッチング電源に使用される。励磁電流を使用して2次巻線側に高電圧を発生させることが可能。 |
昇圧トランス | 出力電圧を入力電圧より上げるために使用される。 |
降圧トランス | 出力電圧を入力電圧より下げるために使用される。 |
昇降圧トランス | 出力電圧を昇圧または降圧する両方の機能を持つ。 |
フォワードトランス | 一般的なスイッチング電源トポロジに使用。構成が比較的簡単で、フライバックトランスよりも大電力を出力できる。 |
LLCトランス | LLC共振コンバータで使用され、高効率と低EMIを実現する。 |
フルブリッジトランス | フルブリッジトポロジで使用。高電力アプリケーションに適している。 |
ハーフブリッジトランス | ハーフブリッジトポロジで使用される。 |
※トポロジ:回路構成のこと。
スイッチングトランス
スイッチングトランスとは、スイッチング電源回路において中心的な役割を果たすトランスのことです。具体的には入出力間の絶縁や出力への電力供給をおこないます。高周波で動作するため、効率よく電力変換できるのが特長です。また、高周波動作により小型のコア材料と巻線での構成が可能なことから、製品の小型化や軽量化を目指す際にスイッチングトランスは有力な選択肢となります。
スイッチングトランスはパワーエレクトロニクスの分野で広く利用されています。例えば、コンピューターの電源ユニットやスマートフォンの充電器、その他のポータブル電子機器にとって、不可欠なコンポーネントといえるでしょう。スイッチングトランスは効率性と省エネ性に強みがありますが、期待通りの性能を出すには高度な技術が求められます。特に、性能の大部分を決定づけるコアと巻線の設計には細心の注意が必要です。
トランスの役割
トランスは電力システムにおいて多岐にわたる重要な役割を果たします。主な役割には、電圧レベルの調整、エネルギー損失の低減、信頼性と安全性の向上があります。
電圧レベルの調整
トランスを変圧器と呼ぶことからもわかるように、最も基本的な役割は電圧レベルの調整です。電力が発生源から消費地点に伝達される際、トランスによって電圧を上昇させます。消費地点に近づくと、再びトランスを用いて電圧を下げ、家庭やオフィスで安全に使用できるレベルへと調整します。
また、それぞれの電子機器を動かすのに必要な電圧は異なります。例えば5Vで稼働する電子機器の場合、100Vの家庭用電源を用いるためにACアダプタなどで電圧を調整する必要があります。ACアダプタが機器ごとに適した電圧に変換できるのは、トランスを内蔵しているためです。
エネルギー損失の低減
トランスによって伝達効率を最適化することで、電気エネルギーの損失を低減します。前項で述べたように高電圧で伝送するのは、長距離伝送中の損失を減らすためです。同じ電力量をより低い電流で送ることができます。
さらに、トランス設計の改良、適切な材料の使用、製造技術の発展によって、内部損失を減少させ、エネルギー効率がますます向上してきました。電力システム全体の効率化に寄与すると同時に運用コストを削減し、環境負荷の抑制も可能になります。
信頼性と安全性の向上
トランスは電力システムの信頼性と安全性を向上させる役割も担っています。トランス内の構造と絶縁材料は回路の短絡や過負荷を防ぐよう設計されているため、システム保護に有効です。適切な電圧供給を保証することができ、機器・設備の安定稼働に貢献します。特に、産業機械や医療機器などの高い安全性が求められる機器では、感電リスクを最小限にするためにもトランスの性能は極めて重要です。
トランスの選定基準
トランスを選定する際には、電圧・電流、効率、容量、使用環境と設置条件といった複数の基準を検討する必要があります。
電圧・電流
トランスの選定において、電圧と電流は最も重要なパラメータの一つです。トランスは特定の入力電圧(1次電圧)と出力電圧(2次電圧)に対応して設計されており、機器や設備が要求する電圧を供給する能力を備えていなければなりません。また、最大負荷時でも電流を安全に扱えるよう、トランスに十分な容量を持たせておく必要があります。
効率
トランスの効率とは、入力エネルギーに対してどれだけの出力エネルギーが得られるかを比率で示した値です。高効率のトランスであるほどエネルギー損失を抑えられ、長期的には運用コストの削減に役立ちます。
効率の計算方法としては、入出力を実際に測定して求める「実測効率」と、一定の規約に基づいて求める「規約効率」があります。
・実測効率 = 出力 / 入力 × 100(%)
・規約効率 = 出力 /(出力 + 損失)× 100(%)
容量
トランスの容量は、そのトランスが持つことができる最大の負荷を意味します。機器・設備の要求に応じたトランス容量が必要です。
トランスの容量選定における一般的な計算方法
定格容量(kVA)= 設備容量(kW) / 総合力率(%)× 需要率(%) |
単相トランス容量(VA)=2次電圧(V)× 2次電流(A) 三相トランス容量(VA)=√3×2次電圧(V)× 2次電流(A) V逆Vトランス容量(VA)=2次電圧(V)× 2次電流(A) スコットトランス容量(VA)=2 ×(2次電圧(V)×2次電流(A)) 単巻トランス自己容量(VA)=容量(VA)X(1 - 最低電圧(V)/ 最高電圧(V)) 単相三線トランス容量(VA)= 2次電圧(V)× 2次電流(A)+ 2次電圧(V)× 2次電流(A) |
要求性能に満たないトランスでは過負荷がかかり、過熱による劣化や破損のリスクが高まります。多少の需要率増大に耐えられる容量を選定すべきですが、余裕を持たせすぎても不必要にコストがかさむため注意が必要です。
使用環境と設置条件
トランスの選定では、使用環境と設置条件も重要となります。高温や湿気、塵埃、化学物質などの過酷な状況で使用されるデバイスには、適した材料と設計が必要になるためです。ほかにも、トランスを設置するスペースの制約、冷却方法とその冷却効率、メンテナンスの容易さなども考慮しましょう。
トランス設計の手順
トランスの設計は次の手順でおこなわれます。
・要件定義と仕様の明確化
・コアとボビンの選択
・巻線の決定
・モデリングとシミュレーション
・プロトタイプの製作とテスト
以下、各ステップを解説します。
要件定義と仕様の明確化
トランス設計の最初のステップとして、満たすべき具体的な技術的要件を特定します。これにより、使用される電圧レベル、必要な出力電力、効率、容量、サイズといった仕様を明確化できます。このとき、業界基準や規制への適合性、運用される環境への影響、製造にかかる予算などを考慮することも重要です。
トランスの設計目的と機能要求に合致する仕様を明確にすることで、後続の設計プロセスがスムーズに進行します。設計変更の回数を減らし、コスト増や納期遅延を防ぐことにもつながります。
仕様例
相数 | 単相 |
周波数 | 50/60Hz |
入力電圧 | 200V |
出力電圧 | 5V |
出力電流 | 10A |
デューティ | 50% |
効率 | 90% |
絶縁種別 | H種 |
周囲温度 | -10~40℃ |
周囲湿度 | 90%以下 (結露なきこと) |
コアとボビンの選択
コアとボビンの選択は、トランスの性能と効率に直接影響を与える重要なプロセスです。コアの材料は磁気特性(磁気飽和点、透磁率、コア損失など)を考慮して選定し、設計仕様に応じて形状とサイズを決定します。
一方、ボビンの選択では、絶縁性能や熱耐性、機械的強度が主な検討要素です。ボビンのサイズや形状は、コアに適合するものを選びます。コアとボビンの選択は、トランスの電気的特性と信頼性を左右すると同時に、最終的なサイズと重量、コストにも影響を与えることに留意してください。
巻線の決定
巻線設計もトランスの性能と効率に大きく関わります。線材には導電性が高い銅やアルミニウムを採用するのが一般的です。巻数は一次巻線と二次巻線の比率(巻数比)によって決定されます。巻数比は、最低入力電圧で要求仕様を満たすように算出します。入力電圧やデューティが最大になっても磁束密度を超えないよう1次巻数を決め、巻数比に基づいて2次巻数を決定するといった流れです。
巻線の太さ(巻線径)は、許容できる電流量と発熱量を勘案して選択します。また、絶縁の品質もトランスの安全性と耐久性に重要です。巻き方には、整列巻き、セクション巻き、バイファイラ巻きなどがあり、それぞれに異なる特性と利点があります。
モデリングとシミュレーション
モデリングとシミュレーションは、各種デバイスの設計において不可欠なプロセスといえるでしょう。コンピューターを用いたモデリングにより、設計されたトランスの性能を事前に予測し、発生確率が高い問題点も把握できます。シミュレーションでは、電磁場の分布や磁気飽和、エネルギー損失、温度上昇などを詳細に分析可能です。プロトタイプの製作前に設計の最適化ができるため、コストと時間の節約につながります。
プロトタイプの製作とテスト
トランス設計の最終段階としてプロトタイプを製作します。実際の運用条件下でテストをおこない、すべてのコンポーネントが仕様どおりに機能するか確認します。テスト項目は、電気的特性、熱特性、振動耐性、耐久性などです。プロトタイプのテスト結果は、製品の量産に先立つ最終的な検証および改善の材料となります。
トランスの利用用途
トランスは産業用途や商業用途、家電用途、医療用途といった幅広い分野で活用されています。
産業用途
産業分野では、大きな電力を機械や生産設備に安全かつ効率的に供給するために使われます。産業用トランスは特別に設計されたものが多く、重工業や製造業における心臓部といえるでしょう。ほかにも、電動機の起動と変速、電力品質の改善など、特定の技術的要求に応えるためにトランスが使用されるケースがあります。
商業用途
商業施設において、照明、空調システム、オフィス機器などへ電力を供給するためにトランスが広く使用されています。小売店や飲食店、オフィスビル、ホテルのキュービクル(高圧受電設備)にトランスが設置され、電力需要に合わせた変圧をおこなっています。ピーク時においても安定した性能を維持することができ、商業施設の運営に不可欠な設備です。
家電用途
家電製品や電子機器、もしくはACアダプタや充電器の内部にも小型のトランスが組み込まれています。トランスによって100Vの家庭用電源から装置に適した電圧を供給することができ、過電圧や短絡を防止します。効率性と耐久性に優れるトランスが開発されてきた結果、高電圧の電子機器さえも家庭内で安全に利用できるようになりました。
医療用途
医療分野で利用されるトランスはIEC規格への適合が求められ、より正確かつ安全に電力を供給できなければなりません。医療現場で使用されるPCやディスプレイのほか、診断機器、治療装置、患者監視システムなどにアイソレーショントランスが用いられています。特に患者の近くで使用される場合には、絶縁性と信頼性の高さが重視されます。