電源設計の流れ|決めるべき仕様・回路設計・基板設計・試作品評価を解説

電子機器が正常かつ安定的に動作するためには、電源回路の適切な設計が重要です。電源設計の良し悪しが、製品の性能と信頼性に多大な影響を与えるといっても過言ではありません。本記事では、電源設計の基礎となる知識を踏まえ、電源設計の流れや決めておきたい仕様、電源設計の内容詳細について解説します。

電源回路設計とは

電源回路設計は、電子機器を正常に動作させるための電源回路を設計するプロセスを指します。電源回路とは、入力電圧を必要に応じて変換し、適切な出力電力を生成する電気回路のことです。仕様に基づいた電圧・電流を供給することで、機器内の電子回路や半導体部品を正しく動作させることができます。ここでは設計の基礎知識として、電源回路の種類と電源ICの種類について説明します。

電源回路の種類

電源回路は出力方式が交流か直流かで2種類に分けられています。交流出力の電源回路が「インバータ」、直流出力の電源回路が「コンバータ」です。以下に、インバータとコンバータの概要を解説します。

インバータ

インバータ回路は、直流(DC)を交流(AC)に変換する電源回路です。家庭用電源や産業用機器において広く活用されています。パソコンやスマートフォンといった身近な電子機器類からハイブリッド車や電気自動車などのモーター制御、太陽光発電や蓄電システムまで、多様な用途で使用されています。

インバータ回路を内蔵し、「交流>直流>交流」という変換プロセスを担うのが「インバータ装置」です。まず、コンバータ回路によって交流を直流に変換して、電圧や周波数を調整します。次に、インバータ回路がこの直流を再び交流に戻し、機器へ供給するといった流れです。コンバータ回路とインバータ回路の間にコンデンサを配置して、電流の平滑化をおこなっています。

日本の電力会社から供給されている交流電源は電圧と周波数が固定されていて、直接的に変更するのが困難です。とはいえ、低電圧で動作するよう設計されたデバイスに、交流電源をそのまま利用するわけにはいきません。機器ごとに最適な出力を得るためには、電圧や周波数を変更するインバータが不可欠です。電圧や周波数を適切に調整することで、省エネ効果も期待できます。

コンバータ

コンバータ回路は、入力された直流または交流を、機器に適した直流へ出力する電源回路です。昇圧(低電圧から高電圧への変換)や降圧(高電圧から低電圧への変換)といった電圧レベルの調整が可能で、特定の電圧が必要な電子機器で広く使用されています。

「DC/DCコンバータ」は特定の直流電圧を別の直流電圧に変換するもので、代表的なコンバータのひとつです。マイクロコントローラやメモリ素子など、低電圧で動作する電子機器や家電製品に用いられます。また、交流を直流に変換する「AC/DCコンバータ」はACアダプターに内蔵されており、ノートパソコンやスマートフォンなどの充電に利用されています。

一方向にしか電流が流れないダイオードを用いて交流を整流し、コンデンサで充放電を繰り返して滑らかな波、すなわち直流へと変換するのが、コンバータの基本的な動作原理です。この仕組みは、交流が持つ正弦波の特性(波の向きと高さが周期的に変わる)を利用しています。AC/DCコンバータでは整流器とDC/DCコンバータが組み合わされています。これにより電流の方向性を効率よく制御でき、適切な電圧レベルに調整することが可能です。

電源ICの種類

電源回路には、電圧の安定化や電流の制御、電力変換、効率的な電力管理をおこなうために「電源IC」が組み込まれます。ここでは、電源ICの種類として「リニアレギュレータ」と「スイッチングレギュレータ」を説明します。

リニアレギュレータ

リニアレギュレータは、シンプルな構造と安定した出力が特長の電源ICです。入力と出力間に直列に配置された制御素子(トランジスタやMOSFET)を用いて、入力電圧を負荷との間で分圧し、過剰な電圧を抵抗で消耗させて安定した出力電圧を得ます。

リニアレギュレータは、出力リップルが少なく電磁ノイズの放射が少ないため、微弱な信号を扱うアンプ段など敏感な電子機器用の電源回路に適しています。スイッチングレギュレータほど製作コストもかかりません。その一方で、入出力の電圧差が大きいとエネルギー損失も増大して効率性が下がり、発熱も大きくなってしまうのが欠点です。出力形式も降圧のみとなります。

スイッチングレギュレータ

スイッチングレギュレータは、入力電圧をスイッチ素子でオン・オフ切り替えすることで、パルス波を作り、出力電圧を得る電源回路です。このオン・オフ比率(デューティ比)の変更によって、出力電圧を制御します。

スイッチングレギュレータはエネルギー効率が80〜90%と高効率で、発熱量も小さいのがメリットです。最新のコントローラICを使用すれば、約98%の変換効率を発揮できるケースもあります。その反面、外付け部品が多く設計が複雑になること、原理的にノイズが出やすいことがデメリットです。スイッチングレギュレータでは入力電圧をパルス波形に変換する際に、電磁ノイズ(EMIノイズ)やグランドノイズが発生します。

スイッチングレギュレータの主な出力形式には、次の3種類があります。

降圧型:入力電圧より低い出力電圧を得る、最も一般的な形式。

昇圧型:インダクタにエネルギーを蓄えて、入力電圧より高い出力電圧を得る形式。

昇降圧型:降圧動作と昇圧動作の両方に対応。入力電圧の変動が大きい場合に採用される。

電源設計の流れ

電源設計には、製品の要求を満たすために複数の重要な設計プロセスが含まれます。仕様決定から回路設計、機構設計、基板設計、試作と性能評価を経て、最終的な製品の納品まで、各プロセスの概要を説明します。

仕様決定

電源設計の初期段階では、お客様のニーズに基づいて電気的特性、サイズ、機能などの詳細仕様を決定します。このプロセスでは、仕様が変わる可能性も考慮し、製品が最終的に市場の要求を満たすように調整することが大切です。

回路設計

回路設計では、仕様・用途に適した回路と部品を選定します。ここで、保護回路や調光回路などの追加機能の設計を検討する場合もあります。製品の性能と信頼性を確保するために不可欠なプロセスです。

機構設計

機構設計では、製品のサイズ、形状、IP規格に合致する筐体設計などをおこないます。熱シミュレーションを活用した自然対流の最適化やファンの流量設計をすることで、装置の小型化やファンレス化も可能です。

基板設計

ノイズの低減や出力の効率化を図るために、回路設計者と基板設計者が協力してパターンレイアウトや配線の最適化をおこないます。基板設計の巧拙は、電源設計の品質と性能に直接的な影響を及ぼします。

試作・性能評価

試作品が完成した後は、電気的特性、温度、シーケンスなどの広範囲にわたる性能評価を実施します。製品が仕様を満たしているかを確認し、必要に応じて調整・改善を繰り返します。

完成・納品

完成した電源だけでなく、設計資料や評価データ、CADデータ、ソースプログラムも納品します。電源設計にともなって作成された資料やデータなどは、電源の運用やメンテナンスに役立てられます。

電源設計に決めておきたい仕様

電源設計をおこなう際には、以下に挙げる仕様を事前に決定しておく必要があります。これらの仕様は、製品の性能や安全性への影響が大きいため、慎重に検討することが重要です。

入力電圧範囲

入力電圧範囲は、電源が安定して動作するために受け入れることができる電圧の範囲を指します。日本の家庭用AC電源は100Vですが、国外に輸出する製品の場合は使用される地域やアプリケーションを考慮する必要があります。世界的に見ると、住居向けの電源電圧の公称値は大体100〜240VACの範囲に収まりますが、マージンを含めて85〜264VACの想定で設計するのが一般的です。

出力電圧・出力電流

出力電圧と出力電流は、電源が供給する電圧と電流の値を示します。これらは、接続される機器の要求に応じて適切に設定する必要があり、電源の性能と効率に大きく影響します。また、ヒートシンクや放熱環境といった冷却条件を考慮して、最大負荷電流(連続出力が可能な最大電流の実効値)を定めておくことも重要です。

出力リップル電圧

出力リップル電圧とは、スイッチング動作に起因する脈流のことです。電源からのDC電圧に含まれるAC成分の大きさと連動し、リップル電圧が大きいと機器の性能に悪影響を及ぼす可能性があります。リップル電圧の発生はなるべく抑えるのが望ましいですが、コストや技術面との兼ね合いで許容値を設定する必要があるでしょう。

絶縁耐圧

絶縁耐圧は、電源の入出力間や、電源と地絡間で発生する可能性のある最大電圧に対する耐性を指します。安全性が重視される産業分野や医療分野では、絶縁レベルが指定されることがあります。電気的ノイズから機器を保護するためにも、絶縁耐圧の仕様は決定しておくべきです。

動作温度範囲

動作温度範囲は、電源が正常に動作する温度の範囲を示します。この範囲外での使用は、性能の低下や故障のリスクを高めるため、適切な冷却設計が求められます。また、電源回路を機器に内蔵する場合は、内部温度を基準に決定することが必要です。

効率

電源の効率とは、供給される電力に対する出力電力の割合のことです。例えばエネルギー効率が85%だとすると、残りの15%のうち、そのほとんどが熱となって失われます。したがって、高効率であるほど発熱を抑えられ、機器の耐久性・信頼性の向上に寄与します。さらに、省エネルギー性にも貢献するため、製品の競争力を高めることが可能です。

無負荷時入力電力

無負荷時入力電力は、負荷を一切受けていない状態で消費される電力を意味します。この値が小さいほど無駄なエネルギー消費が抑えられ、省電力化に有効です。電源の省電力化はランニングコストを下げると同時に、脱炭素社会を望む世界的なニーズにも応えられるでしょう。

電源設計の内容詳細

製品の性能、信頼性、長寿命化を実現するためには、万全な電源設計をおこなうことが必要です。ここでは、回路設計、基板設計、試作品の評価、EOL対策について、設計内容を詳細に説明します。

回路設計

回路設計は電源の心臓部であり、電源の性能と効率を左右する要素です。

主要コンポーネントの選定と配置

回路に配置する主要コンポーネントは、トランスとレギュレータ、フィルタです。これらの選定は、電源の性能に直接的に影響します。要求仕様と用途に合わせ、効率やサイズ、コストのバランスも考慮して選定することが重要です。これらのコンポーネントを適切に配置することで、電源回路の全体的な機能性を向上させます。

レギュレーションとノイズ低減

安定化技術の選択(リニアまたはスイッチング)は、目的とするアプリケーションに応じて異なります。現在はスイッチングレギュレータが選択されるケースが多いですが、適切な出力の型を選ぶ必要があります。必要があれば、ノイズ低減のためにフィルタリングやシールディングも検討しなければなりません。ノイズを抑えることで信号の安定性と品質が保たれます。

基板設計

基板設計は、電源の物理的な構造と電気的性能を決定します。

h4:レイアウトの最適化

コンポーネントの物理的配置と熱管理、電磁干渉(EMI)の最小化は、基板設計における重要な要素です。効率的なレイアウトは性能を最大化し、熱やEMIの問題を軽減します。

h4:基板材料と製造技術

基板の素材選択(FR-4、CEM-3など)と多層基板の採用は、性能と製造コストに影響します。熱的要件や電気的性能要件を満たすためにも、適切な基板材料を選択することが重要です。

試作品評価

試作品評価によって電源設計に不備がないかを確認し、調整点や改善点を調査します。

試作品の動作テスト

試作品を動作させて出力特性とエネルギー効率を測定し、要求仕様や規格準拠を満たしているかテストします。具体的にはイミュニティ試験やノイズ試験、環境試験、温度上昇試験などをおこないます。入念で高精度な試作品テストは、最終的な製品性能と安全性を保証するために不可欠です。

フィードバックに基づく設計の改善

テスト結果を分析し、そのフィードバックに基づいて再設計と最適化を繰り返すことが大切です。適切な改善は性能と信頼性を向上させ、製品の価値を高めます。

EOL対策(End Of Life対策)

製品の寿命終了(EOL)に向けた対策は、ユーザーから長期的な信頼感と満足感を確保するために重要です。

耐久性と信頼性の評価

コンポーネントの寿命予測と環境ストレステストを通じて、耐久性と信頼性を評価します。ライフサイクルをより正確に予見できれば、ユーザーがメンテナンスや買い替えを計画するのに役立ちます。

アフターサービスと置換計画

保守計画の策定と終了予告部品(EOL Parts)の管理は、製品が長期にわたって効率的に動作し続けるために必要です。アフターサービスによって製品の保守性やメンテナンス性を高めることは、ユーザーの利便性にも貢献します。加えて、要求仕様に合致する代替部品を選定しておき、置換計画も立てておくと万全です。