【若手社員によるコラム連載 第1回】パワー半導体 SiC/GaNは本当に必要?その判断基準とは

今月より、「若手社員主導によるコラム連載」をスタートいたしました!
本企画では、サンシングループの若手社員が主体となり、日々の業務や勉強を通して得た知見をもとに、テーマの選定から執筆までを手がけています。
それぞれの視点だからこそ見える気づきや学び、現場ならではのリアルな声をお届けすることで、読者の皆さまに新たな発見や共感を感じていただければ幸いです。

SiC/GaNを取り巻く風潮

SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)といった次世代パワー半導体は、「高効率」「小型・軽量」「高耐圧・高周波」といった魅力的なキーワードとともに注目されています。

展示会や技術記事でも頻繁に登場し、導入を検討する企業が増えている一方で、現場では「本当に使うべきか?」「Siのままで十分では?」という疑問も根強く残っています。結論から言えば、SiC/GaNは“必要なところにだけ使うべき部品”であり、用途に応じた判断軸を持つことが重要です。

導入判断への一歩目

導入判断のスタート地点は「現行Siで困っている課題が明確かどうか」です。たとえば、発熱がボトルネックになって冷却機構が大型化している、電源の体積や重量が設計目標に収まらない、効率改善が求められているのに損失が削れない、といった状況にある場合、SiC/GaN導入は有力な手段となります。逆に、現行設計で性能・温度・サイズに余裕があり、コストが最優先の市場であれば、無理に新材料へ置き換える合理性は低いといえます。次世代半導体は万能薬ではなく、“特定の課題に対する特効薬”と捉えるのが現実的です。

用途から選択する

次に、用途ごとの得意領域を整理すると判断しやすくなります。SiCの強みは高耐圧・高温・大電力領域です。EVのインバータや車載OBC(オンボードチャージャー)、産業機器の高電圧電源、再生可能エネルギー領域におけるパワコンなど、600V〜数kVクラスで高効率化や損失低減が求められる用途で真価を発揮します。SiCは導通損失・スイッチング損失の両方を下げやすく、結果として冷却系を簡素化でき、装置全体の小型化・軽量化にもつながります。

一方、GaNの強みは高周波スイッチングと小型化です。数百Vクラスの電源で、高周波化によってトランスや受動部品を小さくできるため、ACアダプタ、通信機器、サーバー電源、急速充電器などの「小さく軽く高効率にしたい」領域に向きます。特に、電源の薄型化や高出力密度が差別化要因になる製品群では、GaNの採用効果が出やすい傾向があります。

 図 Si/SiC/GaNにおける得意領域のイメージ

SiC/GaN導入によるデメリット

SiC/GaN導入はメリットだけではありません。最大の壁はコストと設計の難易度です。デバイス単価が高いだけでなく、周辺回路(ゲート駆動、保護設計、EMI対策、実装熱設計など)まで含めて最適化する必要があります。高周波化すればノイズ設計の難易度も上がり、置き換えたのに思ったほど効率が出ない、EMI評価で苦戦する、といったことも起こり得ます。つまり「デバイスが良い=製品が良くなる」ではなく、システム設計全体としてメリットが出るかを見極める必要があるのです。

SiC/GaNを提案するなら

提案のポイントは、流行やスペック訴求だけで押し切らないことです。「現行の課題はどこか」「効率、サイズ、温度、重量、コストなど、どの軸を最重要視するのか」「量産時の供給リスクや長期供給はどうか」など、SCR(= Situation, Complication, Resolution)をお客様と一緒に整理し、“必然性があるかどうか”を論理的に判断する支援が価値となります。SiC/GaNは確かに強力な武器ですが、適材適所で使ってこそ最大の効果が出ます。


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